『都市パン』全ページ解説
『都市パン』全ページ副音声解説
ページ表記はハルタのページです。同人誌とページ数変わらないのでそのまま読めます。
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手を差し出す→目をそらす。
アクション始まりの映画ってカッコよくないですか。恐れ多くもペドロ・コスタの『血』っぽいのに憧れていました。
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舞台のモデルは南船橋の若松団地。ロケハンにも行ってモリモリ写真撮った。
イケアが巨大すぎて怖かった。
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今読むと三ページ目でいきなり時間とばすの度胸ありすぎててビビる。ここの「ワン」は最後のテレビをかき消す「ワン」からの逆算。
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『都市パン』はずっと前景と後景なのじゃ!と言っていて、それがこの頁あたりから顕著に出てる。
主人公は家でなぞの練り物をかき混ぜて食っている。
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これでもかとリモコンを前景に。ここの混ぜる手の線。
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町長の顔は吹き出しに消されている。
西さんのパンを引き裂いて食べるガキども。箸をぶっ挿してぐちゃぐちゃにするガキども。ここも前景と後景。ガキ大将の顔から入るのが、今回の作品のリズム感。
西さんの声だけが響く放送室。教室のうるささと放送室の防音っぷりの対比、みなさんも覚えてないですか?
中学生の分際で自分だけの部室みたいな牙城を持っていた放送委員たちがうらやましかったことを覚えています。
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頁をまたいで主人公の顔つなぎで、前景と後景はじまり。
治安が悪化する描写をこういう風に一コマで見せれてほんとうに良かった。かなりギリギリ最後らへんにこういう風に一コマで町の雰囲気を見せるって決まったのを覚えている。こういうのをだらだらやるとつまらなくなる。顔と向き合う吉成君。この次の頁で、はじめて西さんと顔と顔を正面から向き合う。顔と顔がはじめて向き合う瞬間をいかに後ろの方までとっておき、なおかつ劇的にできるかって、かなり大事だと思った。
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ここで「たかがギネスのために なんでみんなこんなに…」ということばの意味がわからないと、全然違う編集の人に言われたけれどそれもまた致し方なし。今回の話はけっこう狭いところにボール投げている気がします。
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前景と後景。今読んでもかなりはちゃめちゃなのだが、井戸畑さんと二人して黒田硫黄の『大金星』『大王』を連呼しながらやっていた記憶。いちばんこういうドライブ感が楽しかった。
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パンの中は空洞だった。みなさん、ちっちゃくなってパンの中に入りたくないですか?ぼくはうどん派ですが、パンのイースト菌カスカスの表面を眺めながら中に入りたいなっていつも思ってました。
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こういうアップがやれたので今回は大満足。クロード・シャブロルの映画でよくこういう、え?それ?みたいなものがクローズアップになるのでそれにあこがれてました。
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ぶち抜きヒロイン。名前は藤沢さんと呼んでいました。体臭を嗅いでパンを食ってないことがわかって繋がる、みたいなのあこがれてました。関係ないですが、スパゲッティばっかり食ってると体臭がくさくなる気がします。天井から垂れるコード。今回の短編は二ページに一回デカい見せ場をつくらないと、変な話だから飽きられるみたいなのを意識してます。
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三コマ目は井戸畑さんがよく描く職人大人の顔。ここで働かされているひとたちも、西パンでしいたげられたり、なんらかの不利益を被ってきた人たちなのでしょう。
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天井から伸びていたコンセントが何につながったかがここで明かされます。セリフはすべて『男たちの挽歌』の有名なシーンのパロディ。
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夜の団地で星を見ながら、「米は完全なんだ!」このマンガのタイトルはけっこうギリギリまで決まっておらず、最初は『パン・都市・戦争』でした。でもお互いに「都市パン」と呼んでてそれがそのままタイトルになってます。
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米食って、バキバキにキマって西さんの姿すら見えない吉成君。のちに「ここから逃げよう!」と諭すアホっぷりにはちょうどいいキマり具合というか、『トレインスポッティング2』の原作がこんな話でした。
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三コマ目の吉成くんエロすぎる。スターターピストルが「ぱん」になってたり、こういうところは全部井戸畑さんアイディア。スターターピストルのアマゾンレビュー見ていたら、友達の鼓膜割りまくるの楽しいーみたいなレビューがたくさんあってマジで怖かった。
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「もうここからじゃ顔に見えないよ」、このセリフむずくない?顔を近づける西さん。この三、四コマ目の表情ホンマ凄すぎる。井戸畑先生感謝。
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AKIRAバイクみたいな大友メカ乗っとる老人。ページ終わりでほがほが行ってて、次のページでアクションみたいな、読みの持続に気を使ってるっぽいな……。
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5コマ目は1007ページ目の町長の顔の隠し方と同じでそっくり。それどころか西さんと結婚した未来のようにすら見える。吹き出しをさえぎる手、それが頁をはやくめくれ!とせかしているかのように…
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前ページの手は吉成くんでした。じつは最初手をのばすのは、西さんの予定だったのですが、井戸畑さんが吉成君にするアイディアを出しこの形へ。大正解。すれ違う藤沢さん。空に大きく描かれたX。空は顔になることを拒否しているように見える。
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ページ始まりをデカいアクションにするのおすすめです。そしてガン引きのロングショット。この作品全体が超ロング超アップの繰り返しで作られています。「拾った」の差し出す前の凧と同化した西さんのコマ。ちょっとゾッとする雰囲気が少しありませんか?今見ると山内重保『カエル石のひみつ』のどれみっぽい。
- 1026,27
全部井戸畑さんアイディア。わしほんまなんもしとらん。全部井戸畑さん。井戸畑さん本当すごい。どうやってこんなの思いつくんだ。見切れてる手の描かれ方、なびく黒服、空に浮かぶ偽物の顔。
- 1028,29
ほとんどBut I'm a creep I'm a weirdoのテンションです。やはり西さんは顔を見せません。デカいコマで見せたら、けっこうちばてつや賞だなって思います。
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じつは一昨年あたり、高層階の病室で入院している友人の部屋の窓から友達が揚げた凧が見え、コツンコツンと病室の窓を叩くシーンがある映画を撮ろうと思っていました。んで凧にゴープロしばりつけたりしてたんですが、けっきょく全然飛びませんでした。凧にゴープロをしばりつけて、地上とそれを見上げる主人公たちの切り返しで泣かせたる!って思っていたんですが、それは叶いそうにありませんでした。原因はやはりゴープロの自重にありました。どれだけ走っても走ってもゴープロの重さを増した途端、飛ばないのです。結局、引きずられた凧の映像しか撮ることができませんでした。下で爆発でもおこってくれれば……。結局撮ることもなかったその映画の撮影ロケハンでそんなことをみんなで笑いあっていたのを昨日のことのように思い出したのかもしれません(?)
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三コマ目、西さんの手にニュートンの歯形。それを包み込む手。
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ここで伸びた糸が西さんの髪の描線を通じて、導線のように(はやくめくれ!)なっているのがお気に入りです。このマンガ、おもろいのかどうか不安で、出来上がった作品を最初に西瓜士(41号)さんに見せたときにこのページを褒めてくれて安心したのを覚えています。
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前景と後景。またなにかがはじまろうとしている。そこに人が集まろうとする予感。とてもアホくさい催しに。
以下ツイートから
顔との距離を取ることは難しい。だから食べるのではないかたちで顔そのものと向き合う必要がある。たとえばそれは顔の描かれた凧を飛ばすこととかを通して。
風に流されていくそれは、わたしたちが凧を自在に操ることができないことを、飛ばしている間中ずっと教えてくれる。凧を操るように凧にも操られること。それを許すこと。ちょうどいい距離感を保つことができたとしてもそれは風が吹いていた一瞬にすぎない。またすぐに「グロテスク」な日常は戻っていく。パンが西さんに似てないと言えるようになった吉成くんもいずれ西さんは自然に離れていくかもしれない。膝の上では犬がウンコをしようとしている。