『都市パン』全ページ解説


『都市パン』全ページ副音声解説


 

無事『都市パン』掲載のハルタも発売され、誰からのぞまれたわけでもないのですが、忘れそうなので自分のためにいろいろ書き残しておきます。全部井戸畑さんがすごい。
ページ表記はハルタのページです。同人誌とページ数変わらないのでそのまま読めます。
  • 1001
    手を差し出す→目をそらす。
    アクション始まりの映画ってカッコよくないですか。恐れ多くもペドロ・コスタの『血』っぽいのに憧れていました。
  • 1002
    舞台のモデルは南船橋の若松団地。ロケハンにも行ってモリモリ写真撮った。
    イケアが巨大すぎて怖かった。
  • 1003
    今読むと三ページ目でいきなり時間とばすの度胸ありすぎててビビる。ここの「ワン」は最後のテレビをかき消す「ワン」からの逆算。
  • 1004
    犬の名前がニュートンって、たしかなんかの漫画であって、すごいセンスだなっておもって覚えていて引用。何の漫画だかわかった人教えてください。ニュートンはお腹が弱いのかよくうんこする。個人的にはここの三コマ目の西さんがいちばんのいちばん。
    四コマ目のうんこ座りもかわいい。井戸畑さんすごい。
  • 1005
    『都市パン』はずっと前景と後景なのじゃ!と言っていて、それがこの頁あたりから顕著に出てる。
    主人公は家でなぞの練り物をかき混ぜて食っている。
  • 1006
    これでもかとリモコンを前景に。ここの混ぜる手の線。
  • 1007
    町長の顔は吹き出しに消されている。
    西さんのパンを引き裂いて食べるガキども。箸をぶっ挿してぐちゃぐちゃにするガキども。ここも前景と後景。ガキ大将の顔から入るのが、今回の作品のリズム感。
    西さんの声だけが響く放送室。教室のうるささと放送室の防音っぷりの対比、みなさんも覚えてないですか?
    中学生の分際で自分だけの部室みたいな牙城を持っていた放送委員たちがうらやましかったことを覚えています。
  • 1008
    頁をまたいで主人公の顔つなぎで、前景と後景はじまり。
    治安が悪化する描写をこういう風に一コマで見せれてほんとうに良かった。かなりギリギリ最後らへんにこういう風に一コマで町の雰囲気を見せるって決まったのを覚えている。こういうのをだらだらやるとつまらなくなる。顔と向き合う吉成君。この次の頁で、はじめて西さんと顔と顔を正面から向き合う。顔と顔がはじめて向き合う瞬間をいかに後ろの方までとっておき、なおかつ劇的にできるかって、かなり大事だと思った。
  • 1009
    ここで「たかがギネスのために なんでみんなこんなに…」ということばの意味がわからないと、全然違う編集の人に言われたけれどそれもまた致し方なし。今回の話はけっこう狭いところにボール投げている気がします。
  • 1010
    西さんの足元のすぐ下にはグチョングチョンの顔たちが。
    関東大震災の慰霊碑が鳩のフンまみれで草も生えきっていて、でもそのまわりを(というか上を)子供たちが鬼ごっこしていた光景なんかを思い出したりしたのかもしれない…。
    物語の序盤で一回盛り上がりを入れるのを毎回意識しているのだが、今回のここがそれです。
  • 1011
    前景と後景。今読んでもかなりはちゃめちゃなのだが、井戸畑さんと二人して黒田硫黄の『大金星』『大王』を連呼しながらやっていた記憶。いちばんこういうドライブ感が楽しかった。
  • 1012
    パンの中は空洞だった。みなさん、ちっちゃくなってパンの中に入りたくないですか?ぼくはうどん派ですが、パンのイースト菌カスカスの表面を眺めながら中に入りたいなっていつも思ってました。
  • 1013
    こういうアップがやれたので今回は大満足。クロード・シャブロルの映画でよくこういう、え?それ?みたいなものがクローズアップになるのでそれにあこがれてました。
  • 1014
    ぶち抜きヒロイン。名前は藤沢さんと呼んでいました。体臭を嗅いでパンを食ってないことがわかって繋がる、みたいなのあこがれてました。関係ないですが、スパゲッティばっかり食ってると体臭がくさくなる気がします。天井から垂れるコード。今回の短編は二ページに一回デカい見せ場をつくらないと、変な話だから飽きられるみたいなのを意識してます。
  • 1015
    三コマ目は井戸畑さんがよく描く職人大人の顔。ここで働かされているひとたちも、西パンでしいたげられたり、なんらかの不利益を被ってきた人たちなのでしょう。
  • 1016
    天井から伸びていたコンセントが何につながったかがここで明かされます。セリフはすべて『男たちの挽歌』の有名なシーンのパロディ。
  • 1017
    夜の団地で星を見ながら、「米は完全なんだ!」このマンガのタイトルはけっこうギリギリまで決まっておらず、最初は『パン・都市・戦争』でした。でもお互いに「都市パン」と呼んでてそれがそのままタイトルになってます。
  • 1018
    米食って、バキバキにキマって西さんの姿すら見えない吉成君。のちに「ここから逃げよう!」と諭すアホっぷりにはちょうどいいキマり具合というか、『トレインスポッティング2』の原作がこんな話でした。
  • 1019
    三コマ目の吉成くんエロすぎる。スターターピストルが「ぱん」になってたり、こういうところは全部井戸畑さんアイディア。スターターピストルのアマゾンレビュー見ていたら、友達の鼓膜割りまくるの楽しいーみたいなレビューがたくさんあってマジで怖かった。
  • 1020
    AKIRAの鉄雄みたいになってるけど、へいぜんと開会式やって町長のスピーチやってるみたいなグロさ。井戸畑さんと東京オリンピックの会場行ったりしてたんだけど、その辺の空気間がけっこう出ているような出ていないような…。町長はテレビに出た初期から式典のときにだいぶ太ったという設定。黒制服の西さんがカッコいい。
  • 1021
    「もうここからじゃ顔に見えないよ」、このセリフむずくない?顔を近づける西さん。この三、四コマ目の表情ホンマ凄すぎる。井戸畑先生感謝。
  • 1022
    AKIRAバイクみたいな大友メカ乗っとる老人。ページ終わりでほがほが行ってて、次のページでアクションみたいな、読みの持続に気を使ってるっぽいな……。
  • 1023
    5コマ目は1007ページ目の町長の顔の隠し方と同じでそっくり。それどころか西さんと結婚した未来のようにすら見える。吹き出しをさえぎる手、それが頁をはやくめくれ!とせかしているかのように…
  • 1024
    前ページの手は吉成くんでした。じつは最初手をのばすのは、西さんの予定だったのですが、井戸畑さんが吉成君にするアイディアを出しこの形へ。大正解。すれ違う藤沢さん。空に大きく描かれたX。空は顔になることを拒否しているように見える。
  • 1025
    ページ始まりをデカいアクションにするのおすすめです。そしてガン引きのロングショット。この作品全体が超ロング超アップの繰り返しで作られています。「拾った」の差し出す前の凧と同化した西さんのコマ。ちょっとゾッとする雰囲気が少しありませんか?今見ると山内重保『カエル石のひみつ』のどれみっぽい。
  • 1026,27
    全部井戸畑さんアイディア。わしほんまなんもしとらん。全部井戸畑さん。井戸畑さん本当すごい。どうやってこんなの思いつくんだ。見切れてる手の描かれ方、なびく黒服、空に浮かぶ偽物の顔。
  • 1028,29
    ほとんどBut I'm a creep I'm a weirdoのテンションです。やはり西さんは顔を見せません。デカいコマで見せたら、けっこうちばてつや賞だなって思います。
  • 1030
    じつは一昨年あたり、高層階の病室で入院している友人の部屋の窓から友達が揚げた凧が見え、コツンコツンと病室の窓を叩くシーンがある映画を撮ろうと思っていました。んで凧にゴープロしばりつけたりしてたんですが、けっきょく全然飛びませんでした。凧にゴープロをしばりつけて、地上とそれを見上げる主人公たちの切り返しで泣かせたる!って思っていたんですが、それは叶いそうにありませんでした。原因はやはりゴープロの自重にありました。どれだけ走っても走ってもゴープロの重さを増した途端、飛ばないのです。結局、引きずられた凧の映像しか撮ることができませんでした。下で爆発でもおこってくれれば……。結局撮ることもなかったその映画の撮影ロケハンでそんなことをみんなで笑いあっていたのを昨日のことのように思い出したのかもしれません(?)
  • 1031
    三コマ目、西さんの手にニュートンの歯形。それを包み込む手。
  • 1032
    ここで伸びた糸が西さんの髪の描線を通じて、導線のように(はやくめくれ!)なっているのがお気に入りです。このマンガ、おもろいのかどうか不安で、出来上がった作品を最初に西瓜士(41号)さんに見せたときにこのページを褒めてくれて安心したのを覚えています。
  • 1033
    「わかった気がする」なのがほんとうに難しい。むずくない?ここでニュートンが吠えて吹き出し内を読めなくさせるかどうかで井戸畑さんと大論争になりました。
    「また町のパン屋にもどっちゃった」なんて言葉を片足あげて飄々と言う西さんが素晴らしいですね。
  • 1034
    前景と後景。またなにかがはじまろうとしている。そこに人が集まろうとする予感。とてもアホくさい催しに。
    以下ツイートから
    顔との距離を取ることは難しい。だから食べるのではないかたちで顔そのものと向き合う必要がある。たとえばそれは顔の描かれた凧を飛ばすこととかを通して。
    風に流されていくそれは、わたしたちが凧を自在に操ることができないことを、飛ばしている間中ずっと教えてくれる。凧を操るように凧にも操られること。それを許すこと。ちょうどいい距離感を保つことができたとしてもそれは風が吹いていた一瞬にすぎない。またすぐに「グロテスク」な日常は戻っていく。パンが西さんに似てないと言えるようになった吉成くんもいずれ西さんは自然に離れていくかもしれない。膝の上では犬がウンコをしようとしている。