2024マンガベスト10 その3( 人間が大好き竹田純 yaca nyankobrq okadada 陰山涼(げか) ななめの 投擲装置 ジュンスズキ ねぎしそ 梢はすか 八月のペンギン 堀尾鉱 marity ふぢのやまい meganedesk)

その1

exust.hatenablog.com

その2

exust.hatenablog.com

 

人間が大好き

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エチピク『プラスチックよりも透明な爆弾』(comicキスハグ vol.5)

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 思春期の尖っていながらもやわらかくみずみずしい感性を丁寧に描く前半、身体が交わり出した瞬間に溢れ出す感覚をサイケデリックに描く凄まじい後半。しかしエッジが効いているのは成年向け漫画としてちゃんと説得力を持ってエロくするためのもので、エロ漫画”なのに”じゃなくて、エロ漫画”だから”なところが本当に格好いい。ただ三人称視点で他人の性行為を見せるのではなく、触れ合った瞬間に脈や体温から流れ込む情報量に脳を焼かれて自我が沸騰するような興奮、全身が何かに包まれて溶けて流れ出していく遺伝子の乗り物としての身体感覚を主観としてこんな方法で提示できるのかと衝撃を受けた。あと掲載誌のcomicキスハグ、ウェブで話題になる挑戦的な読切作品のR18版みたいなのばっかり載ってる本当に恐ろしい雑誌でした。



猫にゃん『Vドライブ!』1巻

 

 

4コマ表現の最先端にして最前衛。すごいので解説記事を書いた。

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heisoku『さわやかなディオラマ』1巻

 

 

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 親を亡くしたばかりの引きこもりの元に乙女ゲー世界から出てきたと自称する謎の男が現れ、なし崩し的に互助生活が始まる。作者の過去作にも通じるどこか社会に馴染めない人々が高解像度の心理描写で描かれる。優しくも少しの死の影がある日常の空気。葬儀の回想や実在の怪しい謎の男を通じて人間が存在するとはどういうことかに迫る思索もよい。過去作と違いオムニバスではなくストーリーの形式で人間関係の蓄積が描かれており、この先にも期待がかかる。



六道神士士郎正宗紅殻のパンドラ』26巻

 

 

 

 紅殻のパンドラ自体の完結のみならず、『攻殻機動隊』『アップルシード』と同じ世界のさらに先の時代、種族や文明のスケールで進歩した人類を描く、士郎正宗ワールドすべての最終回ともいえる壮大な未来が描かれている。”企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても国家や民族が消えてなくなるほど、情報化されていない近未来”に対する、遥かな未来からのアンサー。



売野機子『ありす、宇宙までも』1巻

 

 

 学ぶことで世界が開けていく物語は、そのテーマに反してわれわれが幼少期になしえなかったことの溜飲を下げる道具として消費され、他者化され、結局は学ぶことから遠ざかってしまいがちではないかとよく思う。しかしこの作品は生まれ直さなくてもいいと主張して、これがわれわれの人生と地続きであることを忘れさせない。それが本当に偉い。




O仮名だモ『へるしーへありーすけありー』

 

 

 まんがタイムきららのレーベルなのに絵のタッチ、マンガの技法、彩色などがいずれもが既存の系統どころか他の全てのマンガと全く違う。しかしどういうわけか馴染みがある。パラレルワールドから出現したかのような全く新しい漫画のスタイルに今年一番の感動。



浅白優作『スターウォーク』

 

 

 大迫力のSFのなかに伝奇・ダークファンタジー・ホラーのテイストも漂う、本格ポストアポカリプス冒険SF。1話のツカミが強すぎる。そして全部のコマがなんか映画のショットみたいで格好いい。メイドインアビス藤本タツキ以降の時代なんだなと思った。



江河川『反骨』

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 1988年の韓国の田舎、2002年の日本、そして現代をむすぶ、弱いものが死ぬという法則すべてに抗議してきた一人の男の人生。決して多くは語らないのに、力強く肉体感覚にあふれた絵柄と実際に生きてきたかのようなセリフがなによりも雄弁に思想を語っている。リアリティラインを超える展開すらそう思わせない説得力がある。こればかりは他人が言葉で何を言っても野暮になりそうな気がする。そういう漫画が一番いい漫画だと思う。




眺野さお『ミアプラキドゥスより愛をこめて』

 

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 不思議な少女とのSF的青春の一幕と思っていたものが、相手にとっては一生を捧げた愛だったとしたら?異星人にいいようにされているのに、あるいは種族の未来を賭けて命をつなぐ決死の旅のはずなのに、互いにどこか楽しいのはなぜなのか?愛したものを遺したいという想いはどこから来るのか?妊娠の避けられない搾取性をどうするか?ロマンチックかつ性愛についての示唆に富む、ジェンダーSFの良作。



なか憲人『タスクス』

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 縦読み漫画の特性を活かして左横に未消化タスクの帯を表示しつづける冒険物語。ページを持たない縦スクロール漫画では話の展開を忘れてしまうと戻して確認するのが難しいが、やるべきことを常に表示してしまうという大胆かつ批評性ある手法で解決。やるべきことが溜まってくるとタスクの表示が増えて画面が狭くなっていき、精神が圧迫されなかなか崩せなくなってくるあの感覚を視覚的に提示する。こうやって聞くとアイデア先行に感じるが実際に読んでみるとアイデア以上に圧迫感が体験としてかなり効いてくる。

 

 

 

竹田純

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1.徳弘正也『新ジャングルの王者ターちゃん♡』

 

 

アフリカ、アニマルライツ、自給自足ライフ……と一周回って現代的な要素がそろった物語でありつつ、怒涛の下ネタとスリリングなバトル描写、中国気功、改造人間、古代エジプト、ヴァンパイアと闇鍋的展開でめちゃくちゃ面白い。中国編で命の大切さを説明しようとするターちゃんをヂェーンがフォローするシーンで号泣しました。

2.絹田村子『数学であそぼ。』

 

 


数学者版動物のお医者さん。記憶力がよすぎるがあまり京大に入ったが肝心の数学の原理は全く理解していない男の子が主人公という親切設計。読んでも数学は全くわからないが、京大の数学専攻の気持ちは味わえる。

3.古橋秀之別天荒人スパイダーマン、オクトパスガール』

 

 

スピンオフものと侮るなかれ。正統派のシスターフッド少年漫画で熱くなるし、ヤバそうなクラスメイトとの共闘が泣ける。これを映画化してほしい。

4.岸本斉史池本幹雄小太刀右京BORUTO-ボルト-

 

 

NARUTO』の続編。最初はどんなものかな?と思って様子見していたら、いろいろあってナルトは失踪、息子のボルトは里の全員の記憶から消えるし、ナルトの娘が九尾を継ぐという展開に。おもしろすぎるってばよ。

 

5.ちばてつや『男たち』

 

コルクがちばてつや漫画を電子書籍化していて偉い。『あした天気になあれ』『おれは鉄平』あたりはコミックシーモアとかDMMでは読めた気がするけど、『紫電改のタカ』『少年よラケットを抱け』『餓鬼』あたりは読めてよかった。このなかから一つ選ぶなら『男たち』。ジョーのいない『あしたのジョー』って感じで、ドヤ街の脛に傷ある人々の描写が素晴らしい。仲間だと思ってたのに金を取り立てるやつとか怖すぎる。ちばの弟の七三太朗が脚本協力。

 

6.梶原一騎原田久仁信プロレススーパースター列伝

 

 

「伝奇としてのプロレス」が楽しめるのがこの漫画と『有田と週刊プロレスと』。名前だけ聞いたことある往年の名レスラーの列伝漫画で、いいところでアントニオ猪木がいい解説をしてくれる。さすが猪木だなあと思っていたら、梶原一騎の創作らしい。むしろ梶原一騎がすごい。最近、文藝春秋から作画担当の原田による回顧本が出た。梶原一騎原作だと『天下一大物伝』も好き。

7.せきやてつじ『寿エンパイア』

 

 

ハワイ生まれの日系人が帝国金融みたいな寿司屋チェーンに入ってしまったと思ったら、一切老けない寿司職人が立ちふさがり、しかも病死した母親に関わっているらしい……という寿司どころじゃない展開が目白押し。一方で寿司対決の理屈はしっかりしているし、超展開も画力で納得させる気持ちよさがある。今どき珍しい歌舞いてる料理マンガ。

8.朝倉秋成、小畑健『ショーハショーテン』

 

 

回を追うごとに、魅力的な漫才コンビがどしどし出てきて、目が離せなくなってきた。お笑いの理屈や仕組みとキャラ造形の組み合わせの妙で、お笑い論にもなっている。令和ロマンくるまの感想が聞きたい。

9.六内円栄『Thisコミュニケーション』

 

 

ついに完結。前半はサイコパス男と少女たちのやりとりや殺人がバレるかも?というスリリングさを楽しんでいたけど、後半からは、サイコパスから見える世界の理不尽さってこんな感じなのかなあ(特に所長)、と読んだことないものを読んでいる感が凄かった。コミックス掲載の作者の各話振り返りも面白い。

10.TONO『カルバニア物語』

 

 

昨年この記事で紹介されていた『チキタ★GUGU』からこの作者を知った。宮廷の人間模様や機微、少しずつ成長していく登場人物たちを見ていくだけといえばだけだけど、エバーグリーンって感じがするのはなぜなのか。永遠に続いてほしい。1994年連載開始だから何気に昨年で30周年。

 

 

yaca

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追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフ謳歌する。
 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、
俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~

 

 

キャラのタッチの加減で緩急や誘導が作られていて、その加減でグッと引き込まれるシーンがたくさんある。
そのシステムに慣れてくると気楽に読む場所、あまり深く読まなくてもいい場所がわかってくるので、濃いめな内容量に似合わず本当にサクサク読める。2、3周したくなるし、それも全く苦じゃない。
文章量多めなシーンや、真面目シーンのあとは給水所のように「まあ深く考えるなよ」とレイン達が茶々を入れてくれる。気がつけば作者の掌の上!

 

ふつうの軽音部

 

 

主人公鳩野が鈍感系、耳遠い系、天才系とかじゃないのがGOODでした。ちゃんと周り見てるし、ちゃんと周りの子を見て気にしちゃったりするちゃんと普通の女の子。他メンバーのように一緒に鳩野という人間を応援したくなる気持ちになってくる。ヤカ的キャラデザ賞差し上げます


雷雷雷

 

 

このお話でこの絵柄。これを待っていた

ずっと青春ぽいですよ

「アイドルやる」みたいなタイトルじゃないのがすごい。男衆から見た女の子、女の子から見た男ども、たまにどきっとするけど別に恋愛絡みではなかったり。学校の人に自分の好きを話したり発表することの緊張感。誰しもがあった気がするシチュエーション。ずっと青春ぽいんだよな・・・

 

お嬢さんと家政夫

https://amzn.to/3WfI0on

 

初めて韓国の縦読みコミックを読みました記念。勅使原(主人公女)が結構共感できる人間関係ミスを犯しがちで、自分の知り合いでもこういう人いるなあってなった。し、可愛い。素直になり方、人の頼り方を学ぶ教科書としていいかも。Netflixみたいなやたらに次回に引っ張る感じはあるけど全然ストレスない。


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お父さんが変に他人行儀だったり、双子だったりとにかくバックグラウンドの破片が見えていろいろなことを書きたいのが伝わってくる。読み切りだからこうなってるけど、顔を取り戻す物語として長いお話として読みたい。顔がなくても妹の表情がわかるし、抜群に可愛いのは「漫画」だからこそだよねえ。

 

ナースのキクミカワさん

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元々Twitterでアップされていた漫画の連載が決定。ペンギンから人の子は生まれるの?


家が湿気過ぎて生えてきた幻覚誘発するキノコを誤食して発情したあとのあれやこれII

 

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性癖、シチュ、お話、キャラ、漫画あるある、人間関係のあれこれ、なんでもありの闇鍋。でもエロ漫画という柱があるから何をやっても大丈夫◯ カオスでもどのページにも血(愛)が通っていてずっとえっち。これもしかしてⅢとかに続くやつですか。。。?

 

テレビを見る間に起きたこと

booth.pm

エッチな空気(エッチなし)作りがうますぎる。主人公のずっとねちょねちょ一人で考えながら着せ替えてるのそういうことしたがる人間臭くてとても良いです。


合コンに行ったら女がいなかった話

 

 

女の子サイドより男の子サイドが可愛いのがあんまりないパターンなので嬉しい漫画。読んでいくと女の子側の奮闘記になるのも萌

 


nyankobrq

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ヤニねこ

 

 

ヤニカス×猫耳獣人ギャグコメディ。全キャラ魅力的で毎回笑える面白さは勿論、作者のにゃんにゃんファクトリーは複数人体勢で各話ごとに作画やエピソードの傾向も違うことも珍しく面白い。


かしこい男は恋しかしない

 

 

日本トップクラスの偏差値の男子校に通う高校生が毎話新しい女の子に恋をしてフラれていく学歴厨ギャグ漫画。なんだかんだ主人公が良い奴で、魅力のある学歴厨なので毎回応援しながら読んでしまう。

 

人類の半数がちいこになった

 

 

ある日突然、人類の半数が「ちいこ」という謎の可愛い生物に変化してしまうが、大半の人間はこれを「可愛い」の一言で受け入れる世界でのお話。これを自分は勝手に『ノンパニックホラー』と呼んでいる。(人類滅亡パニックホラー的展開のはずなのに誰もパニックに陥っていないので)読者が自分が考えたちいこストーリーを作者にリクエスト(有料)することで漫画化されるシステムは1次創作として新しい。

 

すだちの魔王城

 

 

道具屋を営む少年がひょんなことから魔王の力を継承してしまい、ヒロインの元魔王の女の子が道具屋を経営していくコメディ漫画。個人的に主人公に好意を持つ女の子が複数人出てくる作品は好みじゃないが、この作品は主人公とヒロイン以外はイケメンしか出てこないので安心して読める。今、個人的に最もアニメ化を望んでる作品。


やる気なんかありません

 

 

正直、この漫画は第1話を読んだ時には余り魅力を感じなかった。こういう漫画、昔の新都社とかのweb漫画にあったな~くらいな印象。だけど、読み進める毎に急成長していく主人公に先の展開が気になって読み進める手が止まらなくなった。もうすぐ完結するようで今、一番更新が楽しみな漫画かもしれない。

 

アフターゴッド

 

 

友人から紹介され、まんまとハマった漫画。試し読みできる3話までの恐らく「神VS人類」の異能力バトル漫画に見えるが、この漫画の本質はそこではなくて、様々な『愛』の物語だと思う。


マチュアビジランテ

 

 

悪を成敗する悪の殺し屋系の漫画。この作品はタイトルにもある通り、主人公がプロではなく一般人の天才的なアマチュア。戦いの中で強くなる主人公の戦闘に次ぐ戦闘シーンで飽きさせない展開が毎話楽しみな作品。

 

バンオウ-盤王-

 

 

完結済み作品、1話から引き込まれた。300年生きる吸血鬼の主人公による将棋漫画。主人公は将棋において天才ではなく凡人。しかし、人間の寿命の数倍を将棋に捧げたその練習量が武器。その設定にも、主人公の人間(吸血鬼)性にも引き込まれる作品だった。

プラスチックより透明な爆弾

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成人向け作品、COMICキスハグ vol.5 収録。この漫画を語る語彙も、理解する頭も持ち合わせていないので何も言えないが、この漫画の世界に触れられて良かったと思える作品だった。

 

肉赤子ちゃんと星空の劇団

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是非、他のシリーズも読んでもらいたい。肉赤子ちゃんたちがどういう生命体なのか、職員や施設のことは一切わからないけど、全部優しいお話なので。

 


okadada

 

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順不同
ヒストリエ / 岩明均

 

 


常に最高潮に達し続ける


・化け猫あんずちゃん 風雲篇 / いましろたかし

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いましろたかしってなんで面白いんだろう?不思議


プロビデンス Act.3 / アラン・ムーア、ジェイセン・バロウズ

 

 


これ読むためにラブクラフト全集再読とかする羽目になった、相変わらず凝りすぎてて怖い


・アステリオス・ポリプ /  デイヴィッド・マッツケーリ

 

 


おもしろ手法のつるべ打ちで読んでて楽しかった


・えんちゃんち / 最後の手段

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こういうものが存在する自体が貴重


・魔法医レクスの変態カルテ / 元三大介

 

 


なんか全部ノリが昔のガンガンみたいで大笑いした


・水の定規 / 夕暮宇宙船

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俺がブルーピリオドに期待してたのってこういう事なのかもしれない


・富めるひと / 横谷加奈子

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前作もだけどなんか暗そうであまり暗くならない、乾いている


まぼろしは光線のような / 山本駿平

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自分は単純に鉛筆画とか筆の画とかに弱い

 

 


陰山涼(げか)

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1 水田マル『アヤシデ 怪神手』

 

 


やはり2024年はアヤシデの年だった。密度とスピードが段違い。表現上のアイデアも詰め込みまくり。とにかく本気の奴しか出てこないので気持ちがいい。こんなに気合いを感じたマンガは久しぶりかもしれない。

 

2 菅野カラン『オッドスピン』

 

 


破格。第十五話のサブタイトルが「思想」、スーツのおじさんが大口開けてパフェを食べながら「なんであんなものもっていたいんだろう」と言う扉絵で始まり、めくると対面のおじさんが「思想があるんでしょ」と返したところで本当に敵わないなと思った。あまりにも変だが、芯は通っている(むしろ通りすぎている)。

 

3 丸山薫『司書正』

 

 


ボルヘス中島敦を思わせる奇譚的な設定にもかかわらず、権謀術数渦巻く宮廷サスペンスメロドラマが止まらない。回想の挟み方や視点人物の切り替えなど語りがとにかく巧い。面白すぎるので下手すると毎年ランキングに入れることになる。

 

4 十三野こう『ごぜほたる』

 

 


画面の躍動感と率直な筋運びが好印象。全3巻で早くも完結してしまった。もっと読みたかったというのが正直なところだが、最後まで信じるに足る作品だった。

 

5 弐瓶勉『タワーダンジョン』

 

 


絵も話も抜け感がすごい。なんかフワフワしてるなと思って読んでいると急にカッコよすぎる場面が出てきて食らってしまう。弐瓶作品らしい妙なテンションのラブコメ的瞬間も可笑しい。

 

6 ながらりょうこ『北国ゆらゆら紀行』

 

 


仕事を辞めたばかりの主人公と地元情報誌でライターをしているという友達が北海道内をふらっと旅行したりルームシェアしたりするマンガ。しっかり描き込まれていながらも肩の力が抜けた画面がとても魅力的。描かれるのはささやかな出来事ばかりだが、本当に楽しい。

 

7 城戸志保『どくだみの花咲くころ』

 

 


今っぽさもありつつ、どことなく少し前の『アフタヌーン』感があってうれしい。優等生風の清水くんがかなりヤバいあたりも完全に正しい。

 

8 庄野晶『ドーンダンス』

 

 


才能をめぐる物語も色気のある絵柄も今っぽく、かつ歌舞伎という題材にピッタリ。正直に言えば実際の歌舞伎にはほとんど興味がないのだが、マンガ的なハッタリの効いた描写のおかげで楽しめる。

 

9 ちょめ『室外機室』

 

 


コミティアで毎回クオリティが高すぎるだろと思っていたらあっという間に商業単行本になってしまった。一押しは「混信」。これだけ実験的な画面づくりで読みやすいのはさすがとしか言いようがない。

 

10 高見奈緒『さらば、漫画よ』

 

 


高温化した地上からの避難先として地下都市が建設されるといったSF的な設定と、人気マンガ家とファンの少年を中心に展開する物語の切実さとのギャップが良い。回想や手紙の文面、劇中作『モクモクマン』の中身など異なるレベルの語りを織り交ぜる自在な演出も見事。

 

番外 タナカミホ『アスファルトに赤』

 

 


2024年に単行本が出るかなと思ったら出なかったので、2年連続で同じ作品を番外に。今のところ基本的には電子書籍サイトでの各話売りのみのためハードルが高いが、文句なしにすごい。ヤクザの息子がハンドメイドに挑戦する話が思ったよりもはるかにシビアなトーンで展開されている。紙の単行本が出るのを心待ちにしている。

 

 

 

 


ななめの

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・猫にゃん『Vドライブ!』1

 

 


 一読すればわかるように『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の影響を受けつつ、変身ヒーローバトルと配信者ものをやるという闇鍋的きらら四コマ。バトルシーンで多用される変則的なコマ表現のメリハリが可愛く、かっこいい。

小川麻衣子『波のしじまのホリゾント』2・3

 

 


 年上ヒロインの名手が本気でおねショタ漫画を描くとここまでサスペンスフルになるという当然の驚きがある。

 

・田滝ききき『タワマンで不幸にならない方法』1

 

 


 決してただの出落ちでも、勝ち組負け組ゲームを冷笑的に描いた作品でもない。生き方の枠組みや抑圧を(結果的に)壊していくパワーが込められている。それはそれとしてタワマン大好き主人公の異常行動も面白ポイント。

 

売野機子『ありす、宇宙までも』1・2

 

 


 宇宙飛行士を目指す、という目標に対して人物が成長していく過程を漫画的な外連味のなかで処理するのがべらぼうに上手い。キャラクターが獲得し、読者に向けられてもいるメッセージのポジティブさもまた風通しがよい。

 

・サスケ『魔性の乙女の役廻り』1

 

 


 各生徒にふるまうべき【役柄】と課題が与えられるという奇妙なルールがある女子校で、よい子の主人公がなぜか【悪女】になってしまう、という百合コメディ。キャラクターの見せ方とコマの密度のバランスが絶妙。

 

・川西ノブヒロ『恋は忍耐』1・2

 

 


 昨年も紹介したが、改めて単行本になったので。ストーリーが進むにつれ、恋愛観をたんに脱臼させるだけではないすまないねじれが発生している。コメディというよりどんどん未知に向かっている。

 

・もくはち『サイリウム・パパ!!』1

 

 


 アイドルの娘を持った父が主人公のコメディ。いわゆる「推し」文化的な物語をちょっと違った視点で描くことでアイドルものの魅力もまた異なったかたちで取り出されている。

・田中靖規『ゴーストフィクサーズ』1・2・3

 

 


 異能・怪異バトル漫画にSCP財団的なネットホラー要素をいち早く取り込んだ作品。ほかにもゆっくり解説っぽい生首キャラが出てくる動画や、映画『ストーカー』などの古典SFからのアイデアがふんだんに盛り込まれており、贅沢な建て付けの作品になっている。

 

・松田舞『放課後帰宅びより』1・2・3

 

 


 身体を故障したためにサッカーができなくなった男の子が先輩から「ハイパー帰宅部」に勧誘され、日常のなかにささやかな彩りを見つけていくラブコメディ。ふとした一瞬に遭遇する描写が素晴らしい。

 

・桜箱『スベる天使』花とゆめWEB(未単行本化)

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 お笑い芸人を目指すクラスの女の子(絶望的に面白くない)とのラブコメディ。脱力感のあるシュール多めのギャグとまっすぐな青春要素のギャップがよい味になっている。作中人物は平然としているいっぽうで、読者しかつっこまないような画面や状況が多いのもメタ的に世界のトーンとなっている。

 

 

 

投擲装置

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ごんぶとアヒルvs敵

 

このマンガを超えるものは2024年には出なかった。非常にテクニカルで、全ページ面白い。読者がドンキの歌のリズムを知っていることを当て込んで作るということ自体が既に面白い。1ページ目、リズムに合わせて「ごんぶとアヒル」を改行すると「ごんぶ」「とアヒ」になるという、それ自体は割と説得的なことが、行の情報を含んだ文字列にするだけで、「いやいや、『とアヒ』て!」「『ル』は省略されるのね!」という驚きが視覚的に入ってくる。仮にこれを「ごんぶと~」「アヒル~」のように無理やり全文字詰め込むようなことになっていれば、つまらなかっただろう。「ドンキーホーテの/パクリじゃ/ないですか」の「キーホ」の伸ばし棒によって曲のメロディを読者に再確認させている細かいテクニックも感動的。2ページ目の碁盤目レイアウトは個人的に大好物。「敵」のまだるっこしい登場をオシロスコープをチェックするようなテンションで追っていると、ごんぶとアヒルもいつの間にかフェードアウトしている。リズムではなく音量へと話題をスライドする手数の多さが嬉しいですね。(中略)5ページ目は本当に最高。闇に滲む「それって(…)」の仰々しさ! ニセごんぶとアヒルの歌を「メロディが/良いね」と言えるのは、1ページ目で読者が既にドンキの歌のメロディをアレンジすることを学習しているからだ。元のメロディの音数に対してあまりに多すぎる「ニセごんぶとアヒル」を無理やり押し込めることで生まれるメロディ。「ニセニセニセ」の3つ目の「ニセ」は「ニッセ」のように僅かに跳ねるし、「ニセごん♪」と「ぶとアヒ~♪」間の改行はメロディの都合上かなり狭い間隔になることも身体で理解できる。それゆえ、わざわざ「ごん」の後に挟み込まれた「♪」は、「ニセごん」と「ぶとアヒ」の間の休符や呼吸というよりは、「ごん」の音に込められた楽しい感情のことであると理解できるのだ。ごんぶとアヒルの言う通り良いメロディだね、としみじみ思う。思わされる事自体が笑える。全ページ言いたいことがあるけど流石にここまで。マンガを音読する楽しみを思い出させてくれてありがとう!

 

みっちゃんの皮膚

 

shuro.world

私的なことですが、2024年はキャラクターと人間の関係について考える年だった。2023年秋に邦訳が出版された『アニメ・マシーン』終盤の「信号的アニミズム」に関する議論に感銘を受けると同時に、その感銘は、キャラクターを現実の人間(特に何らかの意味で弱者やマイノリティとして位置づけられる人々)の表象として素朴に描く作品/受け止める読者への戸惑いへと変化した。キャラクターはそれ自体になってしまうということが魅力であり危険でもあると思うが、社会派なマンガはそうした両義性を悪魔祓いし、危険性を見てみぬふりをする大義名分を(結果的に)与えてしまう。そうなるのも自然だし、わかる。でも、キャラクターは人間とはぜんぜん違うのに、にも拘らず私たちの社会になんらか関係してしまうという、魔術的な事実を無視したくない。表層としてのキャラクターの「奥」に「本当の」みっちゃんがいる、という凡庸な理屈を私たちは決して捨て去ることはできず、油断すればすぐにそういうことを言ってしまう。だから常に注意していなければならない。きぐるみは「皮膚」であり、中の人間は「内臓」である、そう言い張ることで、そもそも現実の私たちもキャラクターとの混合体であることを思い出せるし、「皮膚」に空調を付けてもいいのだという救いももたらされる。

 

スターウォーク

 

 


人間絶滅後にも古代のキャラクターたちが残る。しろわん、ぱんだわんにゃんも残る。まだ話数は少ないが、ミアがああなった(ネタバレ配慮)のは、上で『みっちゃんの皮膚』に関連して言った「危険性」と響き合っているように思われた。手塚治虫アトム大使』についてトーマス・ラマール(と大塚英志)が言うことにゃ、戦後日本の小さくてかわいいキャラクターたちに懸けられていた倫理とは、可塑的なネオテニーであるからこそ、脳神経が固定されちゃってる「大人」の世界を結ぶ「大使」になることだった(トーマス・ラマール「戦後のネオテニー」大崎晴美訳、坪井秀人、藤木秀朗編著『イメージとしての戦後』所収、青弓社、2021年)。一方、『スターウォーク』がしろわんに課した使命は、生き残ることである。みっちゃんがバラエティ番組のカス世界から生き残った物語を、また別のフィールドで試しているように見える。

 

なでるだけのお仕事です!

 

 


これまた人間絶滅後のキャラクターの話。今回はそういうテーマでお送りしています。最近のキャラクターは概してやわらかい。人間が小さくて可愛いものを撫でたり揉んだりする楽しみが、その可愛いもの自体の喜びなのだという、消費社会やジェンダー、動物や子ども等々のいろんな領域にまたがる神話が、全体的にもちもちした絶滅後の世界を調停する。神話の領域で考える作品が好きです。なんかややこしいことを言いましたが、深いことをしているのに作品を通して完全にポップさを保っている作者の手腕もすげーなーと思います。

 

今日は楽しいタコ焼きパーティー

 

 


ポケモン二次創作。これもまたキャラクターと人間ですね。人間同士の共同体なんて全く信じられなくなってしまった私たちには、人間でないものが寄り添ってくれる物語が必要です。頭をぐりぐり押し付けてくるマリルは、甘えたがっているのかと思いきや、本当に甘えたいのは主人公のほうで、マリルは自身の柔らかさを使って主人公を触覚的に気遣います。みずタイプであることを活かして水滴をお風呂の縁に並べ、泣くのを我慢している主人公の涙を許してあげます。しみじみ悲しい。悲しい話を丁寧にされると美しい。こちらはキャラクターの側が人間を撫でて内面を与える話。そういう系列について2024年は考えていました。

 

夕日香る剣聖

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公開されたばっかなのでまだ十分考えられていないのですが、なんて面白い! ここまで書いてきたことと明らかに共鳴する作品ではあるんですが、まだ煮詰まってないので余計なことは言わないようにします。とにかく好き。

 

本当にカッコイイ倍速視聴のしかた

 

 

そう、深い話なんかしてんじゃねえよ! そういう態度でなければできない、メタ深い話がある。この作品の画面がヤバいのは誰が見ても明らかですが、語られていることがめちゃくちゃ誠実で深い話なのもヤバい。浅さと深さが表裏一体なのだということを構成主義的な画面と共謀しながら説得してくる。野菜スープみたいにサラサラなコマ割りで社会派な話を俺達に説得しようとするマンガが評価される現状の退屈さをぶっ飛ばしてくれる。この作品のコマ割りもめちゃくちゃ読みやすいけど、それは慣習的なコマ割りの読みやすさとは全く別種だ。

 

反骨

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信じられんぐらい泣いた。とりとめのないことが数珠つなぎになっているように見える人生に、見えない一貫性を感じるということの感動。主人公が苦しい境遇から家族という幸せを勝ち取ったという整理の仕方は、まぁその通りなんだけど、そういうんじゃなくて、いろんなエピソードが一人のキャラクターの人生というフォーマットのもとで集合していって、それらが超次元的にベクトル合成されるようにして作られた何らかのイメージ?観念?とにかく心的な何かが現れて、その何かを体現するようなコマがスッと提示される、俺の私的な読解体験であるはずのものが実は作者に先回りされていたような感覚に陥る、ということに技芸と美の同一性としての「美術」を感じるって言ってんの! 具体的には花が立ち上がるくだりのことだが、ホンガンが仁王立ちするコマと構図が似ているという話ではなくて、そんなことこれまで誰も言っていないのに、彼が「俺より強いやつ」を待ち望んでいたことが必然としか思えなくなる瞬間、そしてそれを人間が作ったということが泣けた。

(以下、R-18)


バイオギア

 

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シリーズ名「アナル・アクメバトル」を見て震えろ。けっこうハイコンテクストだと思うので解説すると、2人の美少女キャラクターがアナルにゼリー(大抵媚薬入り)を詰めて、それをチューブを通じてお互いの腸に押し込め合う様子を描く「アナルゼリー相撲」というジャンルが、ここ数年で少しずつ存在感を増してきている。既に英語圏でも"personality incretion"として広まった大ヒットエロ表現「人格排泄」とも文脈を共有するジャンルである。作者KIKIMETALはアナルゼリー相撲ジャンルの代表的作家だが、それを弐瓶勉テイストで描くという大変個性的なことをしている。基本的にはエロを主軸に制作されているのだが、本作はついにと言うべきか、エロというよりはバトルを主軸にアナルゼリーを描いた意欲作だ。アナルゼリーをサイボークのエネルギー供給源として読み替える発想、エネルギー使用のたびに絶頂してしまうのをサイバネティクス的な技術で遮断する(調四季によって一気にメジャーになった感覚遮断落とし穴ブームをSFバトル漫画のガジェットにしてしまう手腕も恐るべきだ)などの奇想が次々繰り出される。

 

プラスチックより透明な爆弾(『COMICキスハグ』vol.5)

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現在における最高のマンガ雑誌『COMICキスハグ』で活躍するエチピクの、ひとつの到達点と思われる作品。セックス時のドープな絵の迫力もさることながら、書き文字のスタイルの過剰な豊かさが、個々の音の大きさとは違う、多様で錯綜していること自体のうるささを聞こえさせる。それはまた、ねいどが周囲の人や物から聞き取ってしまっているフキダシ内の言葉の、同じフォントで数だけ多いことのうるささとも違っている。書き文字が現れると作品は一気に「エロマンガ」になるが、「エロマンガ」が過剰すぎて逆にエロマンガから離れていき、オリジナルな何かになっている。

 

ジュンスズキ

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2024年に発売された5巻以内の「忖度抜きで本当にめちゃくちゃ面白い漫画」という観点で選びました。

『ザ・キンクス榎本俊二

 

 


『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』まるよのかもめ

 

 


女の園の星』和山やま

 

 


『ハンサムマストダイ』アストラ芦魔

 

 


『恋じゃねえから』渡辺ペコ

 

 


『ふつうの軽音部』原作:クワハリ、作画:出内テツオ

 

 


『セーフセックス』原作:森もり子、作画:岩浪れんじ

 

 


『囚人転生』原作:いとまん、作画:ホリエリュウ

 

 


『本当にカッコイイ倍速視聴のしかた』春原ハルア

 

『魔法医レクスの変態カルテ』元三大介

 

 

2024年は圧倒的に『ザ・キンクス』が最高でした。
5巻以内限定で30位くらいまで考えてみて、勿論どれも面白い作品ばかりなんですが『ザ・キンクス』が強すぎた。
個人的に面白い漫画の定義として「人の心を動かす」ということが大きな割合を占めていて、『ザ・キンクス』は毎月地殻が変動するレベルで動かされました。この作品をリアルタイムで読むことが出来る幸せを深くしみじみと感じています。

忖度をすると、自分が初めて描いた『田代くんとうしろくん』という漫画が親バカ的な観点も含めて面白いと思いました。
1巻3刷、2巻2刷と一部の好事家たちの間でご好評頂いているので100刷目指して頑張ります。

2025年も面白い漫画をたくさん読めることでしょう。全ての漫画家に改めて感謝します。

 

 


ねぎしそ

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お疲れ様です!漫画ベスト5ですが、こちらでお願いします!

1. 岩浪れんじ『バルバロ!』

 

 


創作活動において、どのようにすれば人間(キャラ)が魅力的に描けるのかを示したお手本のような作品であり、濁流のようなテンポとエンタメ的な面白さも備え合わせている、凄まじい傑作。岩浪先生は、人間とは一つ上の視点を持っているような気がしてならない。

2. 芦原妃名子『セクシー田中さん』

 

 


「芦原先生の逝去」「もうこの作品の続きは読めない」という事実が私の評価に影響を与えていることは否定できないが、それを踏まえた上でも、自己肯定感が低い(ように社会から要請されてきた)女性に対して、雁字搦めの現状を一つずつ解きほぐす方法を、あるいはそのための勇気を読者に与えた点で、絶対に評価すべき作品。

 

3. 高森みなも『六年目の浦島太郎』

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全てにおいてクオリティの高い傑作読み切り。時の流れの残酷さ、人間関係における「優しさ」、愛情の方向と効能について高い解像度を持ち、読後からずっと私の胸を締め付けている。

4. 白梅ナズナ/まきぶろ『悪役令嬢の中の人』

 

 


悪役令嬢百合のひとつの到達点。自分の価値観に大きな影響を与えた人のために、自らの人生を躊躇無く捧げる歪な愛情が素晴らしい。特筆すべき点は画力で、悪役令嬢のレミリアの美しさは勿論のこと、神々の表現が異質で面白い。

5. んみ『ロマンスコード』 

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人間×アンドロイド百合の最高傑作。人間が抱く愛と、アンドロイドの抱く愛、その違いと優位性について踏み込み、見事エンタメとして作品に昇華させている。

 

 

八月のペンギン

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★謹賀新年 2024年私的マンガベスト10★

①メグマイルランド『棕櫚の木の下で』
②南寝『午後の光線』
③川勝徳重劇画、藤枝静男原作『痩我慢の説』
売野機子『ありす、宇宙までも』
⑤新田章『若草同盟』
⑥松田舞『放課後帰宅びより』
⑦旗谷澄生『放課後ブルーモーメント』
⑧相澤いくえ『恐竜とカッパのいる図書館』
⑨志波由紀『悪魔二世』
大横山飴『花の在りか』

本年もよろしくお願いいたします。

新幹線車中でまとめました。乱文失礼します。抜けもあるはずです。ご容赦ください。

例年どおり、昨年中に単行本第1巻ないし最終巻が発刊されたマンガ作品のランキングです。

以下に選評を記します。

 

①メグマイルランド『棕櫚の木の下で』

 

 


小学生の南里ソテツが同じクラスの鍋島かりんと出会い、自分を取り巻く世界を少しずつ知っていく。1991年の佐賀市が舞台のボーイ・ミーツ・ガール。
作者が佐賀で暮らしたのは小学生の時期だけだと聞きましたが、当時は言葉に(もちろん絵にも)できなかった感覚が、子育てをするなかで蘇ってきたのだと想像されます。それを言葉と絵にしているからこそ瑞々しく、読者の五感を刺激するのでしょう。
ユズキカズ枇杷の樹の下で』を意識したであろうタイトルに、まずセンスが光ります。マンガ表現も、とにかく自由で素晴らしい! 海外のグラフィック・ノベルのような絵画的なタッチやデザイン性の高いコマ割りを自家薬籠中にしています。
…と、客観的に判断して優れた作品なのは間違いありませんが、本作の評価には、かなり主観も入っています。私は佐賀県の出身ですから。
母の実家が佐賀市内にあり、通った高校も佐賀城内にあったので、登場する風景すべてが馴染み深く、懐かしいです。台詞の佐賀弁もネイティヴのそれですし、登場人物の名字も佐賀に土着のものばかり。解像度が高すぎです。作者とほぼ同世代ということもあり、読むとノスタルジーで感情がおかしくなってしまいます。
そんなわけで、個性が突出しているうえ、あらためて佐賀という土地の魅力を教えてくれた本作が、2024年文句なしの第1位です。

 

②南寝『午後の光線』

 

 


母子家庭育ちの淀井とグロテクスなものへの性的衝動を抑えられない村瀬、二人は人に言えない痛みを介して親密になっていく。
山本直樹の影響が顕著な文学的(かつ映画的)なBLですが、BLに分類した瞬間に大切なものがこぼれ落ちる気がします。二人の関係性には名前がありませんから。それが堪らなく尊く、切ないです。最後のネームもキレッキレで、締めくくり方に余韻があり、読み終えてしばらくのあいだ茫然としてしまいました。
作者はアフタヌーン四季賞2023秋に大賞を受賞したばかりの新人作家。本単行本は同人誌で発表した同作に加筆と描き下ろしを加えたものだそう。桁違いの才能です。

 

③川勝徳重劇画、藤枝静男原作『痩我慢の説』

 

 


川勝徳重は現在オルタナティヴマンガシーンの中心にいると言って過言ではありません。編集者として、このリストに挙げたメグマイルランド『棕櫚の木の下で』と、世良田波波『恋とか夢とかてんてんてん』の連載の立ち上げに関わり、同時にマンガ家としても傑作を生み出してしまうのですから。
作者はすでに「ガロ系」の画風と独特のユーモアセンスで唯一無二の個性を確立していましたが、もう一段進化しました。画力がべらぼうに上がり、表現技法も多様になっています。読んでいて新鮮な感動をおぼえました。
じつは、川勝が『まんだらけZENBU』に連載した、ナカムラマンガライブラリーに関する評論「夢と重力」を読むと、本作の複数の表現の元ネタが分かります。とくに奥行きを生み出す空間演出や犬のベティが夢を見る第3話に大城のぼるへのオマージュが顕著。それが新鮮に見えるのは、したがって皮肉な状況と言うほかありません。ありがたいことに、本年中には「夢と重力」が書籍化されると聞きます。手に取るのが楽しみです。

 

売野機子『ありす、宇宙までも』

 

 


両親を亡くしたセミリンガルの美少女・ありすが、里親と暮らす勉強の虫・犬星くんと二人三脚で宇宙飛行士を目指すガール・ミーツ・ボーイ。
勉強の本質を説く娯楽マンガです。言葉を学習することで、ありすの世界が色づき、輝きを増していく様子が胸アツです。前作『インターネット・ラヴ!』の完成度にも驚きましたが、本作の衝撃はそれ以上。近年では高松美咲の『スキップとローファー』を読んだときに匹敵します。この作者、完全に化けました。

 

⑤新田章『若草同盟』

 

若草同盟 1 (SHURO)

若草同盟 1 (SHURO)

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生活保護家庭育ちのカイロと不登校経験者のムーさん、つらい過去を抱えた二人の不器用な共同生活を描く。
自己の、他者の「ままならなさ」を一貫して描いている作者の最新作。重苦しいエピソードやシリアスな場面も多いけれど、マンガが異常に達者で、とにかく読ませます。マンガ家志望者は、この作者のネームをたくさん模写すると、いいことがあると思います(知らんけど)。
内容に関しては、従来作と異なり性の匂いが希薄な点が気になります。現代では、性愛よりも、その手前にある生活の方が、より深刻な問題だということでしょう。

 

⑥松田舞『放課後帰宅びより』

 

 


膝の怪我でプロサッカー選手への夢を絶たれた新入生の瞬が、帰り道にロマンを求める先輩女子「直帰ちゃん」にハイパー帰宅部に勧誘される。
連載デビュー作からずっと追いかけてきた作者ですが、こんなに高橋留美子成分が濃いラブコメを描ける人だとは知りませんでした。従来作と比べて小さいコマや狭いコマを多用。大ゴマとの落差からメリハリが生まれています。
マイペースな先輩に見守られつつ、少年がささやかな日常への関心を育てていく物語の骨格は、朝ドラ風ヒロインのまっすぐなアイドルオーディションを描いた前作への作者自身の応答といえましょう。

 

⑦旗谷澄生『放課後ブルーモーメント』

 

 


近年の少女マンガでは王道の、男女逆転シンデレラストーリー。
本作はシンデレラの魔法が12時に切れるのと同じように、魔法が切れる夏休み最終日を物語の折り返しに配置。三人の友人たちのエピソードも含めて構成力が抜群。とても初連載作とは思えません。
シンデレラ役の男主人公に関する重要情報が、中盤まで女主人公だけでなく読者にも伏せられる(しかし、それとなく示されてはいる)構成になっています。この情報の統御が本当に巧みです。ぼんやり読んでいたので、よしながふみ『愛すべき娘たち』第4話を思い出して、身につまされました。絵もぐんぐんと上達。あっぱれです。

 

⑧相澤いくえ『恐竜とカッパのいる図書館』

 

 


高2の卸町香歩と薬師堂カオリが、カオリの伯母が遺した未完の物語を通して少しずつ打ち解けていく。
女同士の絆を維持するには適切な距離を保ち相手に依存しないことが大切。けれど、それは結構難しいようです。その困難と向き合いながら物語の結末を考える二人が尊い
リズと青い鳥』インスパイアなのはモチーフや構成から明らか。しかし、作者自身の実体験にこの物語の源泉があることが切実な筆致から伝わります。終盤に出てくる元「ジャスコ」の空き看板が利いています。このディテールで時代の空気感や作者のおおよその年齢などが、ある年代以上の読者には肌感覚として伝わります。あとがきもエモい!
作画はミリペンによるアナログ作画でしょうか。実にいい絵です。トーンを使わず、線のタッチと薄墨で表現。このニュアンスが絶妙。ペンを動かすことで少しずつマンガが形になり物語が紡がれていく愉悦が感じられます。

 

⑨志波由紀『悪魔二世』

 

 


亡き母親が人間で父親が悪魔の女子高生が、彼女の級友兼バイト仲間の男子高生とゆるふわ悪魔退治をする話。
山岸凉子岩明均高橋留美子の遺伝子が「悪魔合体」してまぜこぜになったような実に奇妙な作風。狂気と紙一重のオフビートの笑いが持ち味。マンガ界期待の大型新人の登場です。
ちなみに本作の「悪魔」は、嘘で人を騙して操ろうとする存在。ねずみ講セミナー詐欺などを仕掛けてきます。「悪魔二世」とは、カルト商法に反発する「宗教二世」の隠喩かもしれません。

 

大横山飴『花の在りか』

 

 

時系列がばらばらで同一場面が語り直されることもあり、しかもマンガ的な記号はほぼ不使用ときているので、読者は丁寧に読み進める必要があります。しかし、その静かで緩やかな時間こそが最高の贅沢。タッチや余白のニュアンスから生み出される澄んだ空気は格別。余人に代えがたい才能です。
ただし、今作のような長篇では、もう少し分かりやすいドラマが欲しかったです。気分が宙吊りのままラストを迎えてしまいました。映画だと、それもありなのですが、マンガでは、読者が自分でページを捲って読み進めるメディアなぶんだけ、肩透かし、物足りなさを感じるのかもしれません。

以下も面白く読みました(順不同です)。

 

□緒川みのる『まつり見聞録』

 

 


謎の女性・テオラが日本の地方の極狭コミュニティーに残る奇祭を訪れる紀行が、あれよあれよと何千年にも何光年にもわたる記憶の継承の物語へと拡大していく、そのアイディアと構成に舌を巻きます。日本の少女マンガの蓄積が新人マンガ家に描かしめた驚異のSFマンガです。
正直、なぜデビュー間もない新人作家にこのページ数でこの密度の物語が描けるのか、意味がわからないです。なんならこわいです。ほとんど萩尾望都の水準ですからね。

 

□浅白優作『スターウォーク』

 

 


宇宙計画から帰還したミアと相棒しろわんは変わり果てた地球に降り立ち、異形の生物たちと遭遇する。
可愛らしい絵柄で本格SF活劇を展開。動線漫符を極限まで廃したBDのような表現自体が圧巻。最古の地理書『山海経』も絡むよう。驚異の新作マンガです。つづきが待ち遠しい。

 

□西尾拓也『夏の終点』

 

 


消え入りそうなほど繊細な線で描かれる不器用な少女と少年の切ない恋愛の約十年にわたる道行きを、余白を生かした絵柄やレイアウト、コマ割りで描く。
人物の、とくに横顔に宿る叙情は林静一を、背景のペン画は松本大洋を、そして心の機微を描く作風は紡木たくを連想させます。これが『少年ジャンプ+』で配信される時代なんですね。

 

□はやしわか『銀のくに』

 

 


新潟県の片田舎で祖父母と両親と暮らす高一女子・風花の家に、存在さえ知らなかった従兄妹の賢心とゆき枝が転がり込んでくる。
吉田秋生フォロワーらしく人間関係の機微を繊細に描き出しています。初連載作のようですが、すでに表現が完成されていて安心して読めます。
短篇集の『変声』と『イエスタデイ・ワンス・モア』も珠玉ぞろい。2024年に最も目立った活躍を見せた新人作家。もっと評価されないと嘘ですよ。

 

□小骨トモ『それでも天使のままで』

 

 


唐突ですが、スクールラブコメっていいですよね。例えば、私は桜井のりお先生の『僕の心のヤバイやつ』が大好きです。陰キャ男子が恋愛をきっかけに自己を、さらには世界を肯定できるようになる成長譚。エモい! コレクト! 言うことなし!
でも、思春期に筋肉少女帯をイヤフォンで聴き、山本直樹を隠れて読んでいた私の魂に触れて、そっと慰撫してくれるのは、むしろ対極にある小骨トモの作品なんです。表題作を含む4短篇を収録しています。ぜんぶいいです。

 

□世良田波波『恋とか夢とかてんてんてん』

 

 


彼女持ちのクズ男・高円寺くんに片思いをして、些細なことに一喜一憂して、絵を描くことへの情熱を失いかけている29歳(作中で30歳になります)のフリーター・カイちゃんは、今日も大阪・十三のボロアパートで必死に暮らしています。
カイちゃんは恋愛依存体質で愚かです。でもいつも全力だし、正直でありたいと願っています。
嬉しいことがあると、彼女の瞳に映る景色はにわかに輝き出します。その瞳があれば、きっといい絵が描けるはず。カイちゃんは少なからず作者の分身でしょう。ハッピーエンドを期待しています。

 

□黒川裕美『贋』

 

 


売れない幽霊画家が居候する家の姉妹との生活のために贋作作りに手を染める。
『夕凪に舞え、僕のリボン』の作者の最新作。物語自体は王道ながら着眼点が良く表現力も申し分なし。示される日本画の制作過程も興味深いし昭和8年の東京をマンガで再現する執念にも頭が下がります。

 

□塚田ゆうた『RIOT』

 

 


紙の雑誌に憧れる田舎町の男子高校生・シャンハイとアイジがZINEを作る話。
文章担当とデザイン担当がタッグを組んで活動する「まんが道」インスパイアの王道ストーリーを、大友克洋と真造圭伍を掛け合わせたような作画とコマ割りで展開。初連載作とは思えぬ質の高さです。

 

安藤ゆき『地図にない場所』

 

 


成績のいい兄と見た目のいい弟に挟まれ、劣等感を抱えた物静かな中学生の次男が、30歳の元世界的バレリーナと「イズコ」を探し歩いた、その先の物語が最終巻で描かれました。
年月を隔てて、互いに後悔と自責を抱える二人が、心の奥を手繰るように言葉を紡いでいく様に、感涙。ソウルメイトのような二人の関係性が羨ましいです。
安藤先生、本当に素晴らしい作品をありがとうございました。アナログ作画の温もりが心に伝わるマンガです。

 

□阿部洋一『羊角のマジョロミ』

 

 


開始から7年、ついに完結! 待っていました!
後輩の美少女と二人きりの世界を夢想した「一人マン研部員」の陰キャ男子が、共依存関係にある彼女とともに二つの世界を終わらせた罪を背負い、あらためて現実と向き合うラストは誠実そのもの。
作者は1981年生まれ。彼が心のよすがにしてきたであろう「セカイ系」ジャンルの成熟した果実です。

 

□城戸志保『どくだみの花咲くころ』

 

 


裕福な家庭で育った優等生が、家庭環境が複雑で癇癪持ちの少年の芸術的才能に魅せられる、小学生男子のボーイ・ミーツ・ボーイ。
五十嵐大介風(やや拙いですが)の絵柄で展開されるコメディ。周囲の評価と異なり、実は世間知らずで猪突猛進の主人公が笑いを誘う構造がユニークです。

 

□結木万紀子『姨捨星』

 

 


5つの短篇を収録。画力にはやや改善の余地がありますが、絵は描いていれば上手くなります。この人はネーム力が抜群。複雑なカットの繋ぎ方をしているのに、ストレスなく読ませる技量があります。
人間の本音に迫る作風。少しひねくれています。よしもとよしとものような、ひと癖ある作家です。

 

□ちょめ『室外機室 ちょめ短編集』

 

 


読むたびに中身の変わる個人誌、死んで21gになった幽霊、異世界の情報番組を受信するラジオ、広大な地下空間を持つ図書館。いつもの日常を半歩踏み外した先の異界を白っぽい絵柄と抜群の画力で描き出しています。乾いているのに、どこか切なくもの悲しい味わいが魅力。

 

□姫野ユウマ、原作片岡翔『ひとでちゃんに殺される』

 

 


呪いの井戸、黒い女、相次ぐ首切り死、謎めいた美少女転校生といった道具立ての学園ホラー小説のコミカライズ。
ホラーマンガらしく美少女キャラクターがしっかり可愛いし、コマ割りも巧み。とくに大ゴマの使い方が大胆で、読んでいて楽しいマンガです。

 

椎名軽穂『突風とビート』

 

 


霊が見えるニケと、日光アレルギーで霊に憑かれやすい体質のネモ。一見正反対の二人を中心に展開される賑やかなオカルト系ラブコメディ。
人間と幽霊が混在する、かなり複雑な話を捌く手腕が鮮やかです。作者のアナログ作画のファンでしたが、題材が題材ですから、デジタル作画に移行した利点は大きそうです(でも、ちょっと残念)。

 

□灰田高鴻『あたしのザジ』

 

 


20歳の男性フリーター・佐治が、精神を病んだ女子高生に拉致監禁され、猫・ザジとして飼われる話。
上巻では全貌が把握できないものの、虐げられた女性らによる復讐劇に、突然無関係の主人公が巻き込まれるという展開です。登場する女性が全員まともでないのも面白い。エロくてぶっとんでいて、江川達也先生を連想しました。

 

□御前モカ『おはよう、おやすみ、また明日。』

 

 


元CAのマンガ家が(おそらく脚色を交えて)描いた癌闘病体験。
読んでいて「ん?」と思う場面も多く、作者は私が親しくなれるタイプの方ではないと感じるのですが、だからこそ自分とは異なる視点と気づきがあります。あとは同室の患者・杏子さんの人間的魅力によるところが大きいです。

 

□原作クワハリ、漫画出内テツオ『ふつうの軽音部』

 

 


高校に入学して軽音部に入った主人公と周囲の人間模様を描く。
性的マイノリティだったり、人と接するのが不器用だったり、異なる人たちがいて、それぞれに悩みを抱えているのが「ふつう」だというマンガ。いかにも令和です。策士の隣でこつこつ努力を続ける主人公に好感が持てます。

 

赤坂アカ横槍メンゴ『【推しの子】』

 

 


堂々完結。作品のいちファンとして望んだものではなかったけれど、とても納得のいく結末でした。単行本派の耳に、リアタイ勢による「バッドエンド」という評価が聞こえていましたが、違いますよね、これは「悲劇」と呼ぶのが正解です。SNS時代のシェイクスピアに万雷の拍手を!

以上、おつきあいいただき、ありがとうございました。


堀尾鉱

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①山本駿平『まぼろしは光線のような』

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絵もお話も最高。惚れました。この作者の作品は一生追いかけていきたい。

 

②はやしわか『変声

 

 


男の子の変声期エロすぎる!最高!

 

③せがわひろわき『平成ギャングエイジ』

 

 


子ども時代へのノスタルジーを題材にしながらも、ただの郷愁では終わらせないという意気込みを感じる。中学への進学で環境が変化することで人間関係がどうしようもなく変形してしまうそのさまがリアル。いまいちばん続きが気になる漫画。

 

④にしゅ~『エビス映造所で会いましょう。』

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アニメ業界を舞台にした恋愛&お仕事漫画。登場人物はデフォルメされているものの描かれる感情はリアル。描線はシンプルながら画力はものすごく高くぜひアニメ化してほしいと思ってしまった。このキャラクターたちが生き生きと動いているところが見たい。

 

⑤コーヘー『ベベベベベイビー』

 

 


人気キャラクター「倫理観0太郎」の再登場で人気沸騰中のギャグマンガ。こんなの子どもなら絶対好きでしょ(大人には理解しにくいだろうな)という不条理ギャグの連発は『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』の登場時を思い起こさせる。

 

⑥城戸志保『どくだみの花咲くころ』

 

 


世界の狭さ、歪んだ友情、そして愛憎…子どもの世界をグロテスクに抉り出す傑作。スティーヴン・ミルハウザーエドウィン・マルハウス』に似た読後感。

 

⑦山鷹景『ダウナーお姉さんは遊びたい』

 

 


異性に興味を持ち始めたらコロコロやホビーは卒業、という定説(?)を逆手に取った設定が見事。少年が心惹かれるのはホビーなのかお姉さんなのか。「子ども向け」というジャンルに向けた批評を多分に含んだ作品。

 

⑧小松清太郎『ゲーマーが妖怪退治やってみた!』

 

 


子ども向けオリジナルバトル漫画という需要を独り占めする月刊コロコロコミックの注目作。ヒロインとのラブコメ要素だけでなく、敵や自己との向き合い方を丁寧に描写する連載2年目は読者の子ども心をわしづかみにする。

 

⑨里見U『平成敗残兵すみれちゃん』

 

 


人気キャラクター「すしカルマ」の登場によって面白さが加速。かつてのアイドル仲間が徐々に主人公のもとに集っていく展開は往年の少年漫画のよう。男子高校生とアラサーお姉さんたちのハーレム物として読むのも◎

 

⑩GOTTANI『修理を観る』

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自転車修理の様子をただ眺めるというシンプルな作りながら、挫折した青年がかつての初期衝動に触れなおすという物語がしっかりと展開されている点が素晴らしい。主人公の視線や興味の向く先を丁寧に描写する漫画技術の高さにも感動。


梢はすか

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売野機子『ありす、宇宙までも』

 

 

 

「俺が君を賢くする。」という台詞のコンテクストを大槻ケンヂの90年代からようやく塗り替えてくれそうな、超期待のボーイミーツガール作品。宇宙飛行士選抜試験ワークショップの「寸劇発表」の場面に、演劇をつくることのリアルな困難さと面白さが詰まっている。演劇関係者はきっと好きだと思う。


②クワハリ/出内テツオ『ふつうの軽音部』

 

 

 

感情の解像度が高いからといってみんながみんなスキローできるわけじゃない。しこりも残るし、身勝手さも簡単には治らないけれど、それならそれで行くしかない。そんな有限性の中でなるべく善くあろうとするはとっちは、やはり神。


道満晴明冒険者絶対殺すダンジョン』

 

 

ひっどい下ネタとブラックジョーク。なのに爽快感すら覚える小気味良いテンポと洗練された画。久米田康治のような大衆受けにも榎本俊二のようなアート受けにも傾かず(注:二人とも大好きな漫画家ですよ)、星雲賞を獲ってなおサブカルだけがにやつく漫画を描き続けるところが大変頼もしい。


④飯島健太朗『風景3』

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マブダチの新刊。「光について」という題の解説というか胡乱な文章を私が書きました。


志村貴子『Simple pages on my mind』

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すでに見事な完結を見せてくれた作品に関して、「千葉さんと高槻くんのその後のルームシェア生活」みたいな供給に垂涎するのはあまり良いことではないとは思うけれど、思うけれども、志村先生マジでありがとうございます。

 

ワースト:福島鉄平『放課後ひみつクラブ』

 

 

 

 

2024年末、がらがらの「串カツ田中」店内。

 

中国滞在から帰ってきたばかりのふぢのやまい氏が、日本は国家的な「お目こぼし」文化の傾向が強く、それがときどき嫌になると口にした。中国ならヤンキーやトー横キッズのような集団が生き方(あるいはカルチャー)として受容されることはおよそ考えられない。一方で市民間においては、「他人は他人」という不干渉が当然となっているから日本より居心地がよかった。食文化はまったく合わなかったが——と言い、かすうどんを心底嬉しそうに啜っていた。

 

ふぢのやまい氏の見立てを整理すると、一方に〈国家/市民〉という二項があり、他方に〈お目こぼし=不干渉/規制=過干渉〉という二項がある。たしかに唯一無二のポルノコンテンツ供給力を誇る本朝の国家体質を、「お目こぼし」文化と捉えてもよさそうではある。反面、市民レベルにおいて日本人は同質化を好み、他人に対する規制と干渉を好み、出る杭は即打たれる。拝金的なハックには甘いわりに、反抗的なファウルには目敏い。「お目こぼしにあずかる」存在というのは、現代社会において蛇蝎のごとく忌み嫌われる。街中に貼られたステッカー、大学構内を走るスケートボード、未成年の飲酒喫煙。なぜそんなに嫌われるのか、正直理解できない。「私たちは大人しくルールを守っているのに、そうしないお前らはズルい」ってことなのだろうか。裏を返せば、どうしてそんなに許されたいのだろうか。現代人さんは許されたい。公式から認められたい。自分が内側にいられる社会にしたい。籠の中で庇護されて暮らしたい。

 

『放課後ひみつクラブ』の「その44 黄色派のヒミツ」にて、ヒロイン・蟻ヶ崎千歳の蛮行は見た目の美少女性ゆえに許されているのだ、という身も蓋もないギャグが振りかざされるが、これは同作品の根幹に関わる話題だ。蟻ヶ崎のふるまいは学園に許されているわけではない(彼女と生徒会は敵対している)。おもにパートナー・猫田の力添えと、相手の弱みを握ったり恩を売ったりすることによって、不安定な足場をキープしているに過ぎないのである。さらに、作中のみならず、作品の外部においてもお目こぼしが発動する。ナンセンス7割に露悪と冷笑3割で構成されたようなコメディを、福島先生の描く超かわいいキャラクターでシュガーコーティングし提供される『放課後ひみつクラブ』は、とりたてて大きな炎上を起こすこともなく、現状まさしく社会のお目こぼしにあずかってきている。

 

「お目こぼしにあずかる」、ああなんて甘美な響きだろうか。こんなクソ同然の自分よりももっと卑小で醜悪な存在が、なんらかのお目こぼしでたまたま長い人生を送ってしまえる、そういう社会のほうがきっと良いと私は思う。

 

それなのに、である。それなのに、『放課後ひみつクラブ』は連載の最終盤において、前述のギャグを自ら覆すような大設定を持ち出してきてしまう。つまり、蟻ヶ崎千歳という存在の特権性に、もっともらしい理屈で裏付けを施してしまうのだ。するとどうなるか。規制と干渉まみれの学園内(=市民社会)に風穴を開けるアナーキーな少女に見えていたヒロインは、作中世界そのもの(=国家)からあらゆるふるまいを公的に認められたプリンセスに堕落する。私は連載が更新されるたび呆然とした。『フタコイ オルタナティブ』の最終話を見たときとまったく同じやるせなさに襲われた。どうして、そんなに許されたいのだろうか。

 

意地の悪い見方をすれば、『ありす、宇宙までも』や『ふつうの軽音部』さえも、中心はずれの女の子がやがて自己実現できる舞台に辿り着き、ありのままのわたしを許されるという物語だ。無論それらすべてを退けたいわけではない。ただ、『放課後ひみつクラブ』が担っていた希望はもっと別の、もっとユニークなものであった気がして、だからこのような形で完結したことが残念でならない。

 

marity

https://x.com/maritissue

※2024年に一巻発売or一話掲載縛り

 

①四方井ぬい『探鉱ドワーフめしをくう。』

 

 

 


過労働マストの大変そうなバックグラウンドを感じるものの作中全体にしんどさがないのもいい ファンタジーグルメ漫画で世界一すきかも
マトグロッソで3話まで無料で読めます

matogrosso.jp

②inee『ラブ・バレット』

 

 

 


かわいいキューピッドたちによるガンアクションに、ちょっと『エイリアン9』のアニメOP作画を思い出す

 

③鬼井イモリ『大怪獣!アカリちゃん』

www.sunday-webry.com

元気いっぱいのギザ歯ろり

 

④住吉九『サンキューピッチ』

 

 

 


野球1ミリもわからんが作者らしいケレン味たっぷりのキャラ立ちと何よりギザ歯クソガキの三馬くんがたまらない

 

⑤胃下舌ミィ『みっちゃんの皮膚』

 

shuro.world

 

⑥エチピク『プラスチックより透明な爆弾』(COMICキスハグ vol.5収録)

www.dlsite.com

 

⑦城戸志保『どくだみの花咲くころ』

 

 

 

 

⑧まるよのかもめ『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』

 

 

 


寝る前にいつもグミか米かラーメン食べて血糖値上げてからじゃないと眠れないので、過食ネタにしてるとかじゃなくてふつーにおれだーー!!てなる

 

⑨研そうげん『青春爆走!』

 

 

 

 

⑩水田マル『アヤシデ 怪神手』

 

 

 

 

 

ふぢのやまい

https://x.com/gagaga21480621

ゆかいまんが社(punk)「これからこの子のことをめちゃくちゃにします」

 

同人誌を読んでいて、ガツンとやられすぎてどうにかなりそうでした。ラスト3ページのコマ割り、というよりフレーミング、ここまでやり切れるんだって何度も読み返しました。


広瀬海斗『勇者コロしの池がある』 

 

すごい、すごいぞ広瀬海斗。広瀬海斗の速度がそのまま出てるセンスがまぶしい。ポップな絵柄でグロテスクな真実を。

 

肥溜め『ショートマンガ集空虚』

 

これも最後の祝祭感に泣いてしまう。大事に持っていたすぎて、同人誌を撫でて寝ています。

 

江河川「反骨」

comic-days.com

 

「みじめで!」「薄汚い!」から面白すぎて話が全然入ってこなくなって、ひたすら泣きそうになりました。江河川先生の他の作品もどれも素晴らしかった。


添田おうげん『しろいとり』

 

shincomi.shogakukan.co.jp

 

全コマ泣ける。とにかくヒロインが可愛い。この雰囲気でキャラが全員ステキです。立ちションのコマの挿入タイミングが素晴らしい。

 

いましろたかし『化け猫あんずちゃん 風雲編』

comic-days.com

 

いましろたかし先生が離島から漫画を描いてくださっているということが嬉しいです。また心霊ビデオを撮ってください。


高瀬志帆『二月の勝者-絶対合格の教室-』

 

 

これだけ長い漫画なのにオムニバスでもなく、一筋のストーリー漫画っていう凄まじさ。商業媒体でこの密度のものが漫画という形式で連載されて完結されたことがプロフェッショナルすぎて、圧倒されます。

 

中村力斗原作、野澤ゆき子作画『君のことが大大大好きな100人の彼女』

 

 

クロスカッティングの快楽。キャラのひしめきが楽しい。

 

マリコ タマキ, ジリアン タマキ 『Roaming ローミング

 

 

ゼロ年代リバイバルだかZ世代だかわからないけど、わずか数日の旅行の話をこれだけ情感たっぷりに描いているのが本当に感動。試し読みもほぼなく、作者名だけで信じてこの本を買わなきゃいけないのが、特殊な販売事情とはいえビビる。

 

吉田貴司『40歳になって考えた父親が40歳だった時のこと』

 

 

吉田先生の漫画って、そこに気づくんだっていう、気づきのヤバさがあって、エッセイ断章形式で読めることがとても嬉しく、贅沢。

 

 

 

meganedesk(メガデス

https://x.com/meganedesk


heisoku 『さわやかなディオラマ』

 

 

引きこもり無職の主人公の元に乙女ゲーヒーローが異世界(現実?)転生していきなり同棲を始め,お互いにできることできないことを補い合いながら社会生活を組み立てていくケアもの漫画.相手のために自分ができる最善のことをしよう,相互理解と課題解決のためにコミュケーションを尽くそう,という思想が通底していて,世界中の人々がこうだったらいいのになあと思います.もしかしたらheisoku先生の祈りなのかも.どことなく危うさを予感させる演出もあり,今もっとも続きが気になる漫画の一つです.
過去作にもみられた労働描写の卓抜したリアリティは健在,特にベッドタオル交換のシーンは必見.

灰吹ジジ;中西淳『王の病室』

 

 

 

医クラの間で話題になり三巻で打ち切りになった,医療の闇を暴きます系大露悪漫画.後半から急にいい話の割合が増えていくのが大人の事情って感じでちょっとウケる.もっと過激に突っ込んでくれてもよかったのよ…
目の前の患者を救うべきか救わざるべきかというミクロの課題から急に日本全体の医療経済・医療倫理のマクロな課題に接続するので一見するとショッキングな問題提起を投げかけているような印象を受けますが,そもそもミクロの部分で標準治療の基準から外れた行為をしていたり,オミットされてる情報があったり,誇張しすぎているところがそれなりにあるので話半分に読むのが吉.ただ,素朴な医療者の正義観,道徳観の描写という点ではなかなか馬鹿にできない質感で現場のウェットさが描かれているのも事実なので,病院の待合で読むのをおすすめします.ちなみに僕はあまり引かない方です.


永田カビ これはゆがんだ食レポです

 

 

言わずと知れたエッセイ漫画の名手,永田カビ先生の新作.
摂食障害患者の爆食いせずにはいられない!という独特の食体験をこれほど突き詰めて要素を分解し,ビビッドでキャッチーで朗らかに描ききった当事者研究の永久保存版.共感はできないけど理解はできる,絶妙かつ軽妙な語り口で永田カビ過食あるあるが連発していてとにかく新鮮.読んでいて自分もつい食べたくなって,コンビニコロッケを買い,ラーメンおじやを作ってしまいました.一時期は永田カビ先生,もう自分を切り売りするのやめて…と思って読んでいたけど,本作のあとがきで衝撃的な転換期のエピソードがあり,一ファンとしては安心し,一医療者としてこのような希望の持てる語りを世に広めてくれてとてもありがたく,一生きづらさ界隈の人間としてものすごく勇気づけられました.